2006年04月29日

●0429 もう初夏ですか

ついこのあいだ、藍那ではたどたどしかったウグイスも、すっかり上手にさえずるようになりました。今日のように曇った日には藤の花が一段と香りを放ち、いつの間にか満開になっている事を知らせてくれます。
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カエデの若葉は伸びきり、クスノキが古い葉を落とし始めました。
ツツドリがその名の通り、筒の底を叩くような声で鳴いています。
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これは銀杏の黄葉、ではなくて、花です。銀杏がこの季節にこんな花を散らすなんて、今まで気がつきませんでした。

さて、いつまでも続いていた軒付けもようやく後半。
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押さえ竹を止める針金を受けるために、屋根裏にもぐり込みます。
寺院の小屋裏は、跳ね木やら飛燕垂木の尻やらいろいろあってややこしく、針受けをするのも大変です。まあ、これでもましな方。
神社によくある化粧天井が張られていると、針受けは完全に無理なので、外から手を突っ込んで押さえ竹を縫い止める事になります。
sh@

2006年04月27日

●0427 おやかた方

覚園寺は僕のイメージするところの、いかにも鎌倉らしい谷戸を辿った一番奥に境内が広がっています。
鎌倉は中心を山手に少し離れると、谷戸に町が入り込んで行って、尾根の緑に囲まれた住宅地の風景は目に優しく馴染みますね。
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今回の現場にはスミタさん父子の他に、藍那の交流民家でお世話になった、天理のタナカさんもいらしています。
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奈良の二大巨匠とご一緒させて頂けるのは、勉強するためのまたとない機会です。勝手知った仲間とだけ仕事をしていれば効率は良いかも知れませんが、個人としても集団としても、技術的な停滞に陥る事は避けられなくなります。

他所の地域の職人さんと仕事をご一緒すると、今まで「そうするべき」と教えられ、より完璧に「そう」しようとしていた事を、「そうしてはいけない」と全く逆の指摘を受ける事がままあります。時として美山町内でも親方によってこのように逆のことを言われて、丁稚の頃は随分混乱して悩んだものでした。が、これは、どちらが正しいのかという問題ではなくて、正解へ至るアプローチの手法の違いです。

「丈夫で美しい屋根」を葺くための解は一つではなく、ましてや材料が変われば例え同じススキであっても、美山のススキと奈良のそれとでは使い方も変わってくるものです。職人として仕事の質を深めて行くためには、技術的にもモノの考え方としても、自分の中にある引き出しの数を増やすと同時に、それぞれの引き出しの中身も充実させて行く必要があります。

とはいうものの、鎌倉には勉強をさせてもらうために来ているのではなく、仕事をするために呼ばれているのですから、例え今まで自分の培って来た技術をリセットする必要に迫られるようなことを求められても、手持ちの引き出しを引っ掻き回し、新たな技術や考えも日々吸収して、それなりに「仕事」をこなしてみせなくては、次の機会が無くなってしまいます。
一旦「使えないやつ」というレッテルを貼られるようなことがあれば、それは僕のような「渡りの職人」にとっては死活問題となってしまいますから。

藍那のように自分の現場に他の職人さんに入って頂くときとは、また異なるプレッシャーが雇われ仕事でも当然のようについてまわります。でも、そんな緊張感をもって現場に入るのは、嫌な事ではありませんけれどね。

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人数は多くないのに手間のかかる軒付けで、なかなか終わりません。到着してから一週間ずっと軒をつけています。「おまえのせいで捗らん」と言われないようにしなければ。
sh@

2006年04月25日

●0425 軒付け(厚め)

関西では茅葺きの軒の厚みは、2尺=60pくらいです。下地の垂木の一番低いところ、広小舞の際から縄を取った位置に置いた押さえ竹で、軒の先端をしっかり固めるにはそれくらいが限度になるからです。

でも、東日本に来ると厚さが1m前後もある大きな軒の茅葺き屋根がたくさんあります。
覚園寺でも軒の厚さは3尺=約90p。
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軒の厚さを決めているのは、屋根の大きさよりも軒の高さが関係しているように思います。
民家は庇の無い葺き下しであれば、大きな屋根のお屋敷でも軒は高くて2.5m程度まで。普通は2mくらいで、建物を正面から見たときに、軒裏よりも屋根全体のボリュームが強調されるため、分厚い軒をつけなくてもそれほど不自然な感じはしないと思います。

それが神社仏閣のように見上げる高さに軒があると、屋根の大きさに比例して軒も厚くしていかないと、プロポーションが崩れて貧弱に見えてしまうのです。

関西では茅葺きのお寺というと草庵風であったりするもので、軒を見上げるような立派な造りになると、瓦葺きや桧皮葺きにするのが一般的です。一方で東日本には茅葺きの凝った造りの本格的なお堂がたくさんあります。
僕は歴史家でも建築史家でもありませんが、日本の中にも地域によって、明らかに異なる文化を背景とした美意識の存在を感じます。

ところで、普通につければ軒の厚みは2尺くらいが限界と書きましたが、3尺の軒をつけるためには、そのための技術がちゃんとあります。
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下地の垂木から縄を取れる位置で、押さえの竹を2列以上確保して、それらの竹に直角に交わるように(つまり茅と同じ向きに)短い竹を1尺ピッチくらいで差し入れます。この時短い竹の外に向けた先端が、てこの要領で下向きに押さえる力がかかるようにしておきます。この短い竹を利用すれば、下地の一番低いところよりも、さらに外側に押さえ竹を設置することができるようになり、厚い軒の先端までしっかりと押さえることができるようになるのです。

西日本とは異なる、東日本の文化的な嗜好に応えるために、編み出された技術のように思われます。関東東北には、他にも関西に無い軒付けの工夫が色々とあって興味が尽きません。
sh@

2006年04月21日

●0421 現場入り 鎌倉

奈良の宇陀のスミタさんのお手伝いで、覚園寺というお寺の本堂を葺き替えに、鎌倉へやって来ました。
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鎌倉に来てからなかなかネットに接続できなくて、実はこの日記も4/25に書いています。
MobilePointで接続するには事前に手続きが必要ということを知らなくて。色々な方に色々とご迷惑をおかけしました。すみません。そして、ありがとうございました。

スミタさんは文化庁による選定保存技術認定者として、現在のところ唯一人の茅葺き職人です。
もちろん、文化財行政へ協力できる度合いには人それぞれの事情があるでしょうから、単純にスミタさんが日本一の茅葺き職人として認定されているという話ではないのでしょうけれども、名人と呼ばれる方のお一人であり、僕などは及びもつかないキャリアをお持ちの方です。

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ま、ともかくやや遅れて現場へ合流しました。丁度、軒付けが終わったところ、の様に見えます。が、実はまだまだこれから軒を厚くしていきます。既に2尺の軒がついていますが・・・

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それにしても、鎌倉の暖かいことに驚かされました。さすが老舗避寒地。
神戸はまだ芽吹き時だったというのに、ここでは既に新緑が目に眩しくて。二週間は季節がスキップしましたね。なんだかちょっと損をした気分もします。
美山なんか桜が満開だったのに。
sh@

2006年04月19日

●060419 美山の春

明日から鎌倉に長期滞在となるので、準備のために久々に美山の自宅に帰って来ました。
京都の山奥では今がソメイヨシノの盛りです。
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僕の住む集落の入り口にある、小さな茅葺きのお堂。密かに自慢に思っています。
もっとも、この屋根の葺き替えには、まだ関わった事は無いのですけれども。
sh@

2006年04月17日

●060417 晩春

神戸の雑木林が芽吹き始めました。サクラからツツジの季節へ。
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深紅から黄緑までのあらゆる色の点描の霞を透かして、雑木林の林床にはサツキの鮮やかなピンクがぼんぼりのようにうかんでいます。
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茅刈りの済んだ茅場はスミレの花畑となりました。
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2006年04月14日

●0414 刈り込み

あいな里山公園ではハサミ仕上げでしたが、今回は差し茅=補修工事ということもあり、工期や予算を勘案してエンジンヘッジトリマーを使って刈り込みます。
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ヘッジトリマーを使う場合は、ハサミのように刈り込みながら平面をつくることは難しいので、事前に叩き揃える段階で屋根のかたちを仕上げておかなければなりません。

足場を外しつつ上から順に刈込み、仕上がったら例のアワビの貝殻を、括りつけた竹串を茅と平行に屋根に差し込み設置して行きます。
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「ヨシ葺きの屋根に、アワビと鎖のアクセント」は山城から近江にかけて、茅葺き民家の地域的な意匠として定着している感があります。
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アワビの貝殻は(気休めの)鳥除け。鎖は何のために?と、昔尋ねたところ、「火事のときに上がるためだ」と教えられました。
燃えている屋根に消しに上がるなんて、随分危険なことをするものだと思いましたが、そうではなくて、火の見櫓として使うためだそうです。確かに茅葺きの屋根は田舎では高層建築で、棟まで上れば見通しは利きます。
隣家の火災に際して「飛んで来た火の粉を延焼しないように消してまわる」こともするそうです。ちょっと危ないような気もしますけれど。
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やはり、どちらかと言うと意匠的な意味合いが強く残っているように感じます。
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だからこそ、お施主さんも鳥よけの効果には首を傾げながらも、こうして交換用の新しいアワビの貝殻を用意して下さる訳で。
実際、山中の茅葺き屋根とアワビの貝殻という唐突な組み合わせは、なかなかかわいらしいかもしれない。という気もしてきました。段々と。

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sh@