今回の現場で解体した古屋根のうち、数少ない再利用可能な茅の中に、美山で「メガヤ」と呼んでいるススキとは違う茅が結構な割合を占めていました。
所謂「カリヤス」の一種で、白川郷で「コガヤ」と呼ばれているものに近い印象ですが、何分カリヤスの仲間は種類が多いのと、僕自身生えているものを見たことが無いので、同定に関しては自信がありません。
しかし、茅材として非常に優れていることは確かです。
細くしなやかなので均等に密に葺くことが容易で、葉は棹の途中から細かいものが多数出ているので、穂先が大きくなりすぎることも抜けることも無く、棹の中は中空となっているため水はけが良く乾きも早いのです。
素材の感じとしては小麦ワラに似ていますが、もっと肉厚で耐久性も遥かに勝ります。
これだけ優れた素材ですから、かつては美山でも盛んに使われていました。
しかし、生育するのがある程度標高のある山の尾根筋だけなため、そのような場所の茅場は戦後の拡大造林の際に真っ先に杉が植林されましたし、或いは林道もない山奥まで茅刈りに行くことが大変なため、放置され森林に遷移してしまっていて、既にメガヤの茅場は美山では完全に失われてしまっています。
そのため、目にするのは常に古屋根を解体した際の古茅ということになりますが、古茅となっても2回3回と繰り返し使われることも珍しくありません。
今回のメガヤも煤け具合から察するに、前回の葺き替えに際して用意された時点で、どこかの解体した家からもらって来たものなのか古茅だったようです。
茅刈りが行われなくなってから久しい時期に、公共事業のために慌てて集められた新しい茅が、軒並み傷んで再利用できないのに、さらに古い時代に伝統的に刈り続けられて来た山の茅場で刈られたメガヤが、全く問題なく新しい屋根の材料として再利用できる。
しかし、茅刈りを止めたメガヤの茅場は、瞬く間に姿を消して既に痕跡すら判らない・・・
話しは変わりますが、日曜日には溝日役、道日役という地元のムラの共同作業に参加して来ました。
田起こしに備えて、冬のあいだ水を止めていた農業用水路に溜まった、落ち葉や土砂を取り除くのと、雪が消えた農道にバラスを蒔いて、毎年一回路面を整える作業です。
僕は農家ではありませんが、農業のために行われるこのような作業の成果が、積み重なって僕等のムラの美しい景観となっているわけですから、参加することにためらいはありません。
茅場もまた、当たり前に行われて来た茅刈りという営みが、蓄積した風景だった訳ですから・・・
今でもまだ人が積極的に関わっている部分の残る自然だからでしょうか。ムラの農道に咲くタンポポは、どれも在来種のカンサイタンポポでした。
いつか山の上の茅場にも人の手がかけられる日がくれば、古茅ではなく地面から生えたメガヤの姿を見ることが出来ることでしょう。