2007年04月22日

●0422 葺き上げ/ケラバ

雨休みで美山の自宅に帰ってみれば、啓蟄を過ぎた雨の夜の田舎道はカエルだらけ。
カエルに注意を奪われての運転はとても危険ですから、なるべく意識しないように努めなければなりません。
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が、実際にはついつい近くの路面を注視しつつ、反射的に急ハンドルを繰り返してしまいますが・・・
特にこのアマガエルと比べて大きなモリアオガエルは、踏んだ感触がタイヤを通して感じられてしまうので、絶対に轢きたくはありません。

さてアリゴシまで葺き上がってくると、角の部分ではこれまでのコーナーに変えてケラバを積み始めます。
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寄棟の角付けから、切妻の角付けに変更という訳です。
軒と同じように、まず堅く真っ直ぐな材をかきつけて、その上に柔らかめの茅を並べ、それを挟み込むようにして角の材料を付けて行きます。

西日本のケラバは豆腐を切ったような単純なかたちが主ですが、だから簡単かと言うとなかなかそうでもありません。
平らな面は軒裏と同じように、短い距離で茅の角度を急激に変えなければなりません。しかし軒裏と異なり、常に風雨に曝されるところですから、耐久性に配慮した材料を選ぶ必要もあります。
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短く丈夫な材は滑って抜けやすく、短く柔らかい材は雨で傷んでしまいます。長い材は茅を扇のように並べて角度を変えることを妨げます。それらを組み合わせて、抜けにくく、傷みにくく、理想的な角度のケラバを積まなければなりません。

それだけに工夫のしがいがあり、職人ごとの手の違いも大きく、僕自身でも独り立ちした頃と今とでは、使う材料も積み方も全然違って来ています。
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茅葺きという技術は、完成されていると言えるほどには洗練されてはいませんので、個人の一生をかけた創意工夫の積み重ねで、これからもより磨かれて行く余地を多く残しているという点も、僕にとっては大きな魅力です。

イギリスで茅葺きの学校に参加したり、関東の屋根を葺いたり・・・地元を離れての経験は、職人としての視野を拡げて、新しいアイディアを生み出すための大きな力となります。
各地の仕事を手がけることで技術の地域性、ひいては茅葺きという文化の地域性が失われてしまうのではと危惧されたこともありましたが、最近では職人の手技はそれほど浅薄なものではないのではないかと思えるようになりました。
新しく吸収された情報は職人ひとりひとりのなかで消化され、それぞれの土地の文化や歴史を踏まえたかたちで出力されるはずだと思うからです。