この小さな小屋が、美山町の砂木という集落のはずれにある拙宅です。
茅葺きの実験住宅を建てようと決めたのは、即ち自宅を建て替えようということでした。他所のお宅で実験は出来ませんので。
もともと夏場に高知から来られる、「山行きさん(山林技能士)」の飯場として建てられたらしいこの小屋は、華奢すぎて茅葺き屋根を乗せたら耐えられそうにもありません。
また、これからの茅葺き民家の在り方を探るならば、正攻法なら既存の茅葺きの古民家の改装でしょう。美山町内で地元のつてを頼りつつ時間をかけて探せば、手頃な「くずや(茅葺き民家)」の空き家を見付けることもできたかもしれません。
しかし、田舎での暮らしに大切なのは、土地との縁より人との縁なのです。
10年近く暮らして良くして頂き、せっかく根付いた砂木のコミュニティを離れて新たな人間関係を築くのは、同じ美山町内であってもかなり大変そうなので、思い切ってこの場所を最低限必要なだけ造成して、新築で「茅葺きの家」を建ててみることにしました。
◯新築なので全く新しい茅葺きのデザインに挑戦してみたい誘惑にも駆られますが、今回用いたデザインが有効であれば、今後既存の茅葺き民家のストックをレストアする際に使ってもらえなければ意味がありません。
一般的な美山の茅葺き民家の構造と間取りを踏襲して、伝統的な「くずや」に「改造を施す」という仮定の下に設計することにします。
◯茅葺き民家のネガを潰して行くのではなく、ポジティブな要素を組み合わせることで、他にはない快適な住宅を目指します。
即ち、「茅葺きなのに快適?」 →「茅葺きだから快適!」 へ。
◯民芸趣味に走ることのなく、新しい「茅葺き住宅」のかたちを模索してみようと思います。