投稿者「webmaster」のアーカイブ

1012 茅場つくり その2

茅場へと復元予定の田んぼの畔に、あらためて植生調査にやって来ました。
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雨のため一週間順延となったのに、あらためて集まって下さった皆さん、ありがとうございました。

四角い区画を設置して、その中に生える植物の種類と量を定点観測して行く、コドラート法という調査を行います。
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しかし、長らく草刈りが行われておらず、クズとセイタカアワダチソウのジャングルとなっている畔では、コドラートを区切る杭を打つのも一苦労。
さらに地表まで掻き分けて、生えている草の種類を余さず確認して行くのは更に一苦労。

既に花が終わっていたり、クズに負けて矮小化していても、植物の専門家の方は次々と種類を同定して、雑草にも名前と個性があることを教えてくれます。
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個人的に心惹かれたのは、このアキノノゲシ。
薄いクリーム色の花の色が、何とも上品です。

背後には圃場整備によってつくられ、草刈りが滞って薮に覆われた高畔。手前の原っぱは洪水対策の河道修正工事で生じた残土が積み上げられもの。
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いずれも、人が自然との関わりを保って暮らして来たこの列島には、かつて存在したことの無い環境です。
ここで茅刈り始めることで、これらの環境と人が再び関わりを持つようになると、どのように自然が変化して行くのか楽しみです。

1011 刈込み仕上げ

軒付けから始めて下から順番に葺いて行き、差し茅で上半分の屋根と一体化させたら、今度は上から順番に仕上げのハサミを入れて刈り込んで行きます。
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ハサミを使いつつ見上げる空は、透明な秋の空。
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最後に軒を刈り落として、刈込みは終了。
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足場を解体して、掃除。

そして、完成です。
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1008 差し茅

上半分は葺き替えた下半分よりは新しいとはいえ、今回下げ葺きで真新しくした屋根よりは古くなった分だけ薄くなっています。
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そこで、新しい下半分とのあいだに段差が生じないように、差し茅をして馴染ませます。

雨上がりの空気に金木犀の香りが満ちていて、思わず深呼吸。
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美山町の茅場では、銀の波が秋の日差しに輝くようになりました。
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子供の頃には、夏休みが終わってしまうのが寂しくて秋は嫌いでした。
美山町で10年と少し過ごした今では、秋雨でぐずついても冷え込んでも、雪に閉ざされる前にはまだ心地よい乾いた風が吹くことを知っているので、秋も悪くないと思えるようになりました。

1005 茅場つくり その1

米作りの機械化を進めるために、田んぼの区画を大きくまとめる「圃場整備事業」が日本中で進められていますが、一枚の田んぼの面積が広くなった分、田んぼの畔はしばしば見上げるほど高く大きなものとなってしまいました。

田んぼの畔は崩れてしまわないように、刈り込むことでしっかり草の根を張らせておく必要がありますが、あまりに大きくなった畔では刈り払い機を使うのも危険で、草刈りが大変な労働となってしまっています。
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そのために手入れの行き届かなくなった田んぼの畔が、農村風景の中で次第に広がりつつあります。

淡河茅葺き保存会「くさかんむり」は、草刈りの代わりに茅刈りによって、これらの畔を草の生え揃った原っぱへと戻して行くことを目指して、活動を開始しました。

刈り取ることで、放置して自然に任せているよりも生態系も豊かになるはず。
それを確認するために、茅刈りをする前後の植生調査を行います。
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の、予定だったのですが、あいにくの雨。
本格的な調査は無理ですが、参加者で生えている草を集めて来て、森林植物園の先生に解説してもらいました。
こうして説明してもらうと、「雑草」も実に豊かな個性をもっていることに感心させられます。

兵庫県下では姿が見られなくなりつつあるオオバクサフジ(大葉草藤)が、小さな群落をつくっていました。
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日当りの良い草原を好むこの花は、草刈りが行われずクズやセイタカアワダチソウに鬱蒼と覆われた畔では肩身が狭そうです。
茅刈りによってススキの原っぱへと遷移させることができれば、かつては当たり前でありながら今や貴重になってしまったこの花を、再び身近なものに出来るかもしれません。

カヤネズミの古巣も、わずかながら見付かりました。
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草刈りをしないと枯れ草だらけになって、春になっても新しい芽も生えて来ませんから、今のままでは彼等にとっても暮らしにくい場所になってしまっていると思います。

田んぼの畔を守ったり、茅葺きの材料を集めたり、そんな人の営みとともに紡がれて行く、命の営みもあるのです。

1004 下げ葺き

あいかわらず秋の花に囲まれて仕事をしています。
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こちらのお宅の北側が現場。

軒がついたら古い屋根に使われている短い茅を下敷きにして、長い茅の下に差し込むようにする下げ葺きで、どんどん葺いて行きます。
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古い屋根を完全にはめくらない葺き方ですが、新しくできる屋根はほぼ新しい材料だけで葺かれているので、丈夫に長持ちします。

残り少ない暖かな季節を惜しむように、咲いている花には蝶がたくさん集まって来ています。
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夏が終わってアゲハの姿が見られなくなると、入れ替わりにこのツマグロヒョウモンのようなタテハ蝶の仲間が目につくようになりました。

一週間と少しかかって、傷みの酷かった下半分はほぼ新しく葺き替えました。
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0927 壁塗り その1

仕事を終えて帰宅すると、荒壁の片面が塗られていました。
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何だか一気に家らしくなったように見えます。

先日こねた土を使って、左官屋さんが昼のあいだに仕事をして下さったおかげです。
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土壁は片側ずつ乾かしながら塗り重ねて行くので、乾く前に壁土が凍ってしまいかねない季節までに仕上げるためにも、暖かなうちに塗り始める必要がありました。

今日塗った土が乾いてから、反対側を塗ります。
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押し入れも、燻炭の床下断熱材と土壁に囲まれて、結露とは無縁のものになってくれることを期待しています。
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何しろ美山町は、夏も冬も湿度が多くてカビに悩まされるのです。
隙間風を防ぐためにアルミサッシやクロスで囲み、しかし断熱の不十分な茅葺きの家は、特に結露しやすいと不評なのですが、自然換気する茅葺き本来の機能を引き出す断熱を心がければ、むしろ他には無い快適な住宅となるはずだと思っています。

0927 軒付け

秋の気持ちの良い日和が続きます。
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現場のある大野集落は南向きの高台に広がり、山に囲まれた美山町でも日当りの良いところで、秋の花に囲まれて日差しが心地よく降り注ぎます。

軒がついて屋根のかたちが決まりました。
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下げ葺きで効率良く仕事を進めており、天候にも恵まれて捗ります。

ヒガンバナが満開になると、いよいよ秋だと感じます。
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屋根屋をしていて、良い仕事だなあ、と思える季節です。

0924 壁土つくり

砂木の家では、いよいよ壁塗りが始まります。左官屋さんと昨年夏から寝かせた壁土を1年振りにひろげたところ、混ぜ込まれていた藁スサはすっかり溶けて、まるで髪の毛のようになっていました。
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そこに軒刈りででた藁スサを加え切り返して行きます。

さらに同量の新たな壁土が運ばれて来ました。
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古い土、新しい土、藁スサをブレンドして、壁に塗る土をつくります。

上が新しい土、下が1年寝かせた土。
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こんなに変わります。

良い壁を塗るためには、三者を良く混ぜ合わせることが肝要。
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土にさわっているうちに百姓の本性が目覚めたサガラは、いつの間にか裸足で手に鍬。

柔らかな秋の日差しの中で土と戯れています。
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土は重くて体力のいる大変な作業です。このうえ寒かったら果てしなく辛くなるところですが、素手素足で泥に触れる感触は、原始的な快感を呼び覚ましてくれます。
何としても暖かな季節のうちに壁塗りをしておきたかった理由の一つです。何とか間に合いました。

0922  軒の解体

美山町の大野地区へやって来ました。京焼きの祖、野々村仁清の生家といわれるお宅です。建物は江戸時代に建てられたものですが。
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場所によって傷み方の異なる茅屋根、前回の葺き替えでさわらなかった北側の下半分を、差し茅によって上半分の厚みに揃えてほしいと依頼されました。

しかし、キノコまで生えた厚い苔を取り除くと、押さえ竹が出てしまう程屋根の傷みは進んでいました。
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もともと傷みやすい北側の下半分。予算を抑えながら丈夫にするために、差し茅ではなく下げ葺きで対応することにします。

水のまわった軒先は全て解体し、しかし雨に濡れたいない軒下の懐深い部分はそのまま残し、新たにその上に葺き重ねて行くことにします。
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差し茅同様に下地の調整を不要として葺く手間を節約しながら、屋根表面は新たに丈夫な材料に葺き替えて行きます。

0916 茅屋根竣工、土屋根準備

軒を全て仕上げて足場も解体。砂木の家の屋根がようやく竣工しました。
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長かったです。これほど手間取るとは。
本業のお仕事の傍らにご自宅をセルフビルドされる方々のすごさを、身を以て思い知ってしまいました。

さて、ようやく屋根屋の仕事が片付いたので、大工さんや左官屋さんは仕事の再開準備を進められています。
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小舞いのかかれた壁に土を塗る日程も決まりました。ついでに天井裏にも土を載せてもらうので、壁塗りに先立ちそのための準備を進めておきます。

載せた土がひび割れたりしないように、竹にワラ縄を巻き付けたものをこんな感じに配置しておきました。
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茅葺き屋根の天井裏に土を載せるのは関西では大和天井と呼ばれ、室内の保温や防災のために地域によっては広く普及しています。

作業のために照明を灯した屋根裏を小舞壁越しにロフトから見ると、教会みたいで何だか格好良いです。
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建物がその一生の中で一瞬だけ見せてくれる、小舞壁が光を透かす様子を楽しんでいます。
とはいえ、もちろん少しでも早く壁土を塗った方が良いには決まっていますけれども。