投稿者「webmaster」のアーカイブ

0422 芽吹き前の茅場

一旦美山に帰るにあたり、資材を取りに里山の茅倉庫に立ち寄りました。
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先月は梅の香りだけが春の訪れを知らせていた周りの茅場は今や春の野花の盛りです。

ここがかつて長い時間田んぼであった記憶をとどめるレンゲの他に、スミレ、タンポポ、ハハコグサ・・・最近ではあまり見かけなくなった在来種の花も多く見かけます。
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毎年冬には茅刈りによって手入れされ、春先には地表に隈無く日光の降り注ぐ茅場は、春に花を咲かせる野花に取っては理想的な環境なのでしょう。
何千年ものあいだ人の営みに寄り添うようにして、多くの野草が花を咲かせて来たはずです。

そして日当りの良い草原を好む植物は、茅刈りによってススキが元気に繁っていればこそ、ススキとともに葉を伸ばして行くことができるのです。
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ワラビもそんな草のうちの一つ。ですから、手入れの良い茅場では春にはワラビ採りが存分に楽しめます。

積み上げていた茅束の中から飛び出して来た、この小さな小さな野ネズミも、やはり人の手が入ることでつくられる茅場の環境を棲処としています。
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おそらくカヤネズミかと思われます。
文字通り、茅とともに生きるネズミですからね。

0420 白山麓の街

飛騨かやぶきのスギヤマさんの手配された仕事を請け負うために、越前の小松まで下見にやって来ました。
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北陸自動車道は何度も通っていますが、いつも白山は雲に隠れて見ることは出来ませんでした。
しかしこの日は快晴!早苗田の遥かに残雪を頂いた霊峰が青空に映えています。

こちらがその物件、「癒しの森」公園内に移築された旧米谷家住宅。
一見関西で見慣れた入母屋づくりの茅葺き屋根と似ていますが、よく見ると棟のかたち、破風のかたち、角や軒のかたち、細部は随分と違っています。
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傷みの進んだ片側の大間を限られた予算で修復するという、先のかやぶき音楽堂と同様の依頼ですが、かたちが違うというのは中の構造も葺き方も違うということですから、一筋縄では行きそうにありません。

さて、癒しの森の中にはこんな茅葺きの建物もありました。
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世界的な豪雪地帯である白山麓で、夏の間だけ山腹の耕作地に泊まり込むための「出造り小屋」だそうです。
こういう職人の手によらない、百姓の百の技の一つによるつくりの茅葺きにとても惹かれてしまいます。

0417 大屋根の刈込み

ナカノさんの美山茅葺株式会社が若狭小浜で萬徳寺という大きなお寺の屋根を葺いておられます。
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刈込み仕上げの最後の最後をちょっとお手伝いするために行って来ました。

本当に大きな屋根です。
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我々茅葺屋が藍那にいた冬からずっと、手仕事を積み重ねてここまで葺いて来られました。美山は小浜から峠一つ越えただけの丹波の北西端ですが、雪の中を峠を越えて通うのはさぞかし大変だったことと思います。ご苦労様でした。

0405 刈込み・竣工

棟まで差して上がったら、仕上げのハサミをかけながら上から順番に足場を外して降りて来ます。
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最後に軒裏を刈り揃えて完成です。

足場を撤去して掃除をすませたら竣工です。
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天候にも比較的恵まれたので、手早く済ませることができたと思います。

0403 続々・差し茅

ほぼ棟の際まで差して上がって来ました。
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今回の差し茅修理はここまでです。

棟に近づいて見てみると、棟に段を付けて積んだワラが何カ所も引っ張り出されていました。
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おそらくカラスの仕業かと思いますが、エサを穫っているという説には首を傾げます。茅葺き屋根の中は乾燥しきっていて、カラスのエサになるような大きな虫はほとんどいませんし、何より葺いたばかりの屋根からも茅を引っ張ります。カラスほど頭の良い鳥が新築の屋根には虫がいないことを理解できないとは思えません。

やはり、遊び半分なのではないかと。

0401 続・差し茅

我々関西の茅葺き職人は、通常なら先に大間(屋根の平面)を葺いてから、それを規準に小間(屋根の妻面)を葺くのですが、事情があり先に小間を葺いたので少々差しにくい思いをしました。
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アリゴシまで葺き上がったのでこれからはもうそんな不自由はありません。

ところで工期中は現場に泊まり込ませて頂いているのですが、こちらの茅葺き民家は「茅葺き住宅」として活用するために、色々とアイデアを凝らしたアレンジがなされています。
僕が寝ている屋根裏を改造した2階の間もそのひとつ。大きく開けられた窓からの光が美しい屋根裏の造作を照らしています。
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ただし、居室の天井が茅葺きの「現し」だと、やはりゴミやホコリが落ちて来ます。
ましてや屋根葺きの最中なら尚のこと!寝具や着替えを毎朝シートで養生することは欠かせませんでした。

僕の個人的な考えとしては、茅葺き屋根の下は居室に使う天井のある部分と、縁側や土間、囲炉裏の間など「半屋外」として割り切り吹抜けにする部分に分けてしまった方が、住宅としては使いやすくなり屋根も長持ちするのではないかと感じています。
そのあたりのことは砂木の家で試してみたいと思っています。

0330 胡麻の里再訪

一昨年、後ろの音楽ホールになっている本堂を差し茅で修復したかやぶき音楽堂にまたやって来ました。
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今回は手前の住居に使用されている庫裏を差し茅します。

差し茅はあくまでも屋根葺き替えの期間を延ばすためのメンテナンスです。あまり手間がかかるようでは葺き替えた方がましになってしまいますし、かといって急ぐあまり手を抜いてすぐに傷むようではやらない方がましとなってしまいます。
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限られた予算と工期の中で最大の効果が得られるように、手際良く仕事が進むように集中して行きたいと思います。

0321 早春の里山

茅刈りシーズンの締めに、里山の茅倉庫まわりを刈りに来ました。
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この場所を使わせてもらい始めた頃には絡み合うクズのツタに埋もれていましたが、クズの海を開墾した中から掘り起こした梅の木が、茅刈りによる手入れを続けて来たことで、かつて棚田を見守っていたのと同じきれいな花を咲かすようになっています。

茅倉庫の前ではやがて里山公園としてオープンする日に備えて、園路を整備する工事が始まりました。
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雑木林に春の訪れを知らせてくれたサツキの花に今年は会うことは適わなそうですが、園路が完成し雑木林の手入れが重ねられていけば、やがて誰もが足場の良い道から再びサツキを楽しめるようになることでしょう。

0318 茅刈りの日々

今年も茅刈りの季節は終盤を迎えつつあります。
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毎年の刈り取りで手入れされていてこそ、このように茅として優れたススキを得ることもができますから、屋根葺きに忙しいからと行って刈り残すことは出来ません。

丹後で笹葺き民家を再生しつつある立命館大学の丹後村おこし開発チームのメンバーが、茅刈りの様子を見学がてら手伝ってくれました。
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「笹刈り」には慣れた彼等も、「ススキ刈り」には興味津々の様子。

我々が茅刈りに使う鎌は、枝払いなどに用いる両刃の木鎌。
色々試してこれに落ち着きました。
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良く研いで使うことが良い茅を得るためには肝要。自身の疲労も軽減されます。

住宅地の幹線道路の法面で茅葺き民家の葺き材が生産されているとは、この道に車を走らすドライバーの方々は思いもよらないことでしょう。
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しかし、この場所が他と比べて「きれい」であることに気付いておられる方は、少なくも無い様子。
茅刈りの楽しさを伝える手段を考えて行きたいと思います。

刈り取った後に残るススキの葉やハカマ、雑草などのゴモク。そのままにしておくと翌春の芽吹きの妨げになります。
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昔はその場で燃やしていましたが、住宅地のなかで火を使う訳にも行きませんから、きれいに掃き集めて畑の土へと還します。

0309 ネソ

あいな亭を一緒に葺いていた、「飛騨かやぶき」のスギヤマさん
の現場に応援にやって来ました。
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岐阜市内の縄文遺跡公園に建つ復元縦穴住居の葺き替えです。

稲作の一般化していない縄文時代にはワラ縄はありませんから、「ネソ」と呼ばれる雑木を曲げて屋根下地の構造材を組んで行きます。
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ネソはスギヤマさんの地元の北陸地方では伝統的な建材として用いられていて、今回は応援と言いながら、その扱いに関しては日本でも指折りの屋根屋さんであるスギヤマさんに教えを請いに来たようなものです。

ネソの正体は早春の山を彩るマンサクの若木です。
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伐り出したあとしなやかさを失わないように水に漬けてあるネソには、間違いなくマンサクの花が咲いていました。

木の内部が凍ったままで曲げると折れてしまうので、まず焚き火で樹皮が焦げて落ちるくらいまで炙ります。
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さらに全体を絞り上げるようにねじって、木の繊維をほぐしておきます。
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慣れていないと力のかけ方がわからず、からだ中が筋肉痛になってしまいました。

木のねじれが戻ろうとする力を利用して丸太を結束して行きます。ネソは乾燥が進むにつれてより強く締まって外れることは無いそうです。
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縄文時代まで遡らずとも林業を生業として栄えていた飛騨地方では、稲作の副産物であるワラ縄よりもマンサクの若木の方があたりまえの材料でした。
外から見ただけでは判らなくとも、茅葺き屋根を支える技術や材料は実に様々です。現代の茅葺きを支えるに相応しい技を見極めるためにも、永く伝えられて来たそれぞれの技術に関する理解を、少しでも深めて行きたいと思います。