投稿者「webmaster」のアーカイブ

0521 屋根は捗らず、鎌倉の話

あいかわらずすっきりしない天気が続いています。
養生シートを上げたり下げたり・・・まるで、それが仕事のようになってしまっています。
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茅葺き職人に愛用者の多い昔風の「縫い付け」の地下足袋は、足裏の感覚が良く高所の丸太の上での作業には最適なのですが、濡れたシートの上を歩いただけで水が滲みてしまいます。一度濡れてしまうとなかなか乾かないのに。
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ところで、鎌倉の町を歩いて目につくのが、大正昭和初期に建てられた木造住宅。いわゆる近代和風と呼ばれる範疇に入るのでしょうか? 繊細な表情を纏いながら、しっかりと骨太に組まれた強さも醸し出していて、まさに「端正」と呼びたくなるたてもの達です。
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鎌倉は関東大震災による津波で壊滅的な被害を受けたそうで、その後街が再建されたことと関係しているのでしょうが、日本で大工さんが一番良い仕事をすることができたと言われる時代の、木造住宅のストックが豊富です。

旧華族のお屋敷とかはもちろんですが、町中の小さな住宅などでも、いかにも確かな仕事がなされたという跡が感じられます。
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町を歩いていると、そんなたてものが今でも普通に住む道具として、大切に使われている事が感じられてくるので、散歩をするだけでとても幸せな気持ちになれる町です。
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0519 曽爾高原の茅

覚園寺の屋根に葺く茅は、全てスミタさんが奈良の曽爾高原で調達されてきたススキです。
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歴史ある茅場の例に漏れず、細くて丈夫そうな茅です。これを切断したりせずに長いままで使います。

押さえの竹のすぐ下にはしっかりと押さえられるように、やや太く長く丈夫な茅を並べます。
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そのための茅はスミタさんが「特別に」注文して刈ってもらっているそうです。
おそらく、なだらかな起伏のある高原の中の、やや谷や窪地になった部分で、他より地味の肥えたところに生える茅なのでしょう。

茅の中には茅場に生えるたくさんの野花がドライフラワーとなって混じっています。
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アキノキリンソウも綿毛となる前の、かわいらしい花のままで束ねられています。
曽爾高原は標高が高く雪が早いので、茅刈りも比較的早い時期に行われるからでしょう。
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ちなみにドライになる前はこんな感じ。
藍那の現場でバイトしてくれた、ニシワキ君が送ってくれました。六甲山系東お多福山でのスケッチだそうです。

刈るのが早いためか、ススキはまだ葉やハカマを落とす程には枯れておらず、茅の中にはそれらが多く混じっていますので、葺いた感じはぼさぼさしたものになります。
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しかし、これをハサミで刈り込むと、目の詰まった美しく丈夫な屋根になるそうです。
僕はまだ見た事がありませんが、仕上がりが楽しみです。

ところで、今日はマイミクのichide!さんがわざわざ鎌倉を訪ねて下さいました。
仕事場を見てもらったあとに、由比ケ浜大通りを入ったところにあるラ・ジュルネというご飯屋さんで、おいしいパスタを食べつつ話に花を咲かせました。
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デザイナーというのは手の中に納まる道具から、都市を織りなす人と人の繋がりまで、社会に還元するためにより良いコトをデザインする人の事だと思っているのですが、正にそのようなデザイナーな方でした。
佐原市の水郷の再生の話など興味は尽きなかったのですが、しつこく降り続ける驟雨と鎌倉駅のやたら早い終電に急かされて話を切り上げざるを得ませんでした。

その土砂降りの中を駅まで向かおうとしたところ、何と居合わせたお客さんの一人がくるまでわざわざ送って下さいました。行きずりの人の親切は本当に嬉しいものです。ありがとうございました。
また、鎌倉が好きになりました。

0517 鎌倉の石のこととか

鎌倉に戻って来ました。
相変わらず湿っぽい。そして、当然のように2回目のめくりは終わっています。手伝えなくてスミマセンでした。
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そろそろ、葺き上げも調子が出て来ていて、茅屋根も地面から見えるくらいのところまでは葺けて来ました。
屋根のかたちが寄せ棟なので、仕事が進むにつれて確実に小さくなって行き、はかどるであろうことが励みになります。
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ところで、鎌倉のあちらこちらで使われて風景をつくっている石は、0511にichide!さんが指摘して下さった通り多くが大谷石でした。覚園寺に入っている造園屋さんが教えて下さいました。
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石垣などに使われて街並に彩りを添える建築石材は、産地によって流通していた時期と場所がある程度特定されるので、その街の経歴を語ってくれることが多くあります。大谷石は近代和風住宅の豊富な鎌倉の街と、どのようなつながりがあるのか興味が湧いて来ます。鎌倉の地場の石である鎌倉石は、もう少し古いお屋敷や寺院などに多く使われているようです。
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左が大谷石、右の茶色の濃いものが鎌倉石だそうです。

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これが大谷石。
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これが多分、鎌倉石。
やはりちょっと雰囲気が違いますね
sh@

060515 初夏

屋根めくりの始まった鎌倉を後にして、関西へ戻って来てしまいました。
自宅と藍那の茅倉庫まわりの草刈りをするため、その他諸々の用事のためで予定通りなのですが、タイミングがタイミングなだけに少々後ろめたいです。1回目のめくりもやっていないし。

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藍那の里山は初夏の装い。
林中から途切れなく聞こえてくる鳥の声。谷筋を吹き抜ける風。満開のレンゲ、ハハコグサ。
気持ちよすぎて、刈り払い機のエンジンをかけるのが憚られます。

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刈り取った草は一晩くすべて灰にして、畑の肥料に活用します。
火の番とお月見を兼ねて、夜の森で過ごします。

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ここは茅刈りを始めてまだ2年目ですが、草刈りをすると昨年よりも確実に植物の種類が増えている事を実感します。ワラビもススキ野原でよく採れます。今年は遅すぎましたけれど。

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草刈りをすませた茅場は、ススキの株がぽこぽこと個性的な風景をつくります。
手入れされた里山は人の気配が漂って良い感じ。
sh@

0510 屋根めくり(2回目)

軒から2針分葺き上がったので、上の方の古屋根をめくり始めます。
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今回は藍那のときのような素屋根が現場にかかっていませんから、屋根の葺き替えには雨対策が必要です。
古屋根を一度に全部めくってしまうと、養生のためにとてもたくさんのビニールシートが必要になりますし、雨漏りの危険も大きくなります。
特に軒の部分は軒裏から吹き上げてくる風をはらんで、そこからシートがめくれたり破れたりしやすいので、まず、軒付けに邪魔にならない程度に全体の3分の1くらいの屋根を解体するにとどめて作業して来ました。
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こうすれば、雨養生のためのシートは小さくて済み、その分風をはらむ恐れも少なくなります。
新しい軒がついて、軒先から屋根裏に風が入り込む心配がなくなってから、上の方の屋根をめくります。このとき雨養生に使っていたシートが、新しい屋根に古屋根の苔や泥が付くのを防ぎます。
残り3分の2の古屋根も一度にめくらずに、仕上がりの寸法が予想しやすくなるように、棟の部分はまだ残しておきます。何人もの職人が集まって、互いに見えない裏と表に別れて葺いていますから、このような気遣いが最後の仕上がりに利いてくると思います。

シートが無かった昔は、1日に葺ける分だけ毎日少しずつめくっては葺いていたり、白川郷で行われているように1日で葺いてしまう事を最優先に作業したり、色々と工夫(というか苦労)していたそうです。
sh@

0511 雨につき

屋根屋の仕事は雨の日が日曜日です。

鎌倉に来てからじめじめとした日は多かったものの、まとまった雨はあまり降らなかったので何となく濡れながらも仕事を続けてきましたが、今日は昼からしっかり降り出したので休みとなりました。

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昼間に鎌倉を散歩できたのは初めてです。

異邦人が勝手に鎌倉らしさを感じているもののひとつに、名前も知りませんけれどもこの石材があります。
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切り通しや「やぐら」の掘られている谷戸の崖も、稲村ケ崎の海蝕崖ものっぺりとした砂岩の壁で、鎌倉には石というものが転がっていませんが、この石材もそんな砂岩の固いところを切り出してきたもののように見えます。実際のところはまだ存じませんが。

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この石で低く積まれた石垣の上に生け垣、という組み合わせは、いかにも「鎌倉のお屋敷」らしく思えます。

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見た感じ加工しやすそうで、他にも舗石やブロックの代わりに塀に積まれたりして、鎌倉の街のあちこちで使われています。

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エイジングによる効果が出やすいのも、柔らかそうな砂岩ならではですね。

ところで、昨日も少し触れましたが、お施主さんが暮らしたり、宗教施設として現役で使われている建物の、屋根をめくらなければ仕事のできない屋根屋ですから、雨対策が信頼できなければ、今日のような雨降りに安心して休むこともままなりません。

現在はシートがあるからそれでも楽なのですけれども、それまでは屋根をめくった穴を塞ぐためには、茅を仮に薄く並べるくらいしかできなかったそうです。

タナカさんの若い頃の話として、自転車を持っていない自分だけがお施主さんの家に泊まり込み、親方や兄弟子は通いで仕事をしていたところ、屋根めくりをした日の夜に雨が降り出して来たため、ひとりで何とか雨養生をしなければならなくなったものの、大きな屋根に茅を仮に並べ終わる頃には夜が明けてしまったしまったそうです。
しかも、夜が明けると雨は降り止み、仕事に来た親方や兄弟子と共に、あたりまえのように徹夜で仕事をせざるを得なかったとか。
笑い話としてされますが、怖い話です。
sh@

0505 軒付けました

ようやく、巨大な軒を付け終わりました。

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「軒がついたら半分済んだようなもの」とは、気分の上での話ですが、今回は本当に工程的にもそんな感じになりました。
やれやれ。

今日は端午の節句で、お寺から粽をいただきました。
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父が信濃人なせいなのか、実家では子供の日といえば柏餅でしたが、京都の美山へ行ってからは、各家庭でつくられたちまきのお裾分けに預かる事も多くて、それが普通になりました。
ちなみに美山では粽と言えば米粉と白砂糖でつくり、笹の葉を開くと真っ白なそれがあらわれるのですが、鎌倉でよばれた粽は黒に近い濃緑で驚きました。こういうものなのかな?
sh@

0501 鳥の鎌倉

あいかわらず軒付けが終わらないので、屋根について書く事があまりありません。

前にも書きましたけれども、周りを尾根の森に囲まれている谷戸にあって、覚園寺はとても野鳥の多いところです。

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朝から チョットコイ と絶叫しているのはコジュケイ?
ツツピー・ツツピー・と鳴きながら忙しく飛び回るのはおなじみのシジュウカラ
キー・ヒー・ホー・ホイホイ・はサンコウチョウかな?確かに月日星、と聞こえなくもありません。
クグッ・ホー・ホー・を繰り返しているキジバトは、落ち葉を踏みしめながらすぐ足下までやってきます。
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頭上の木の枝でピルルルル・チュルルルル・と優しく鳴き交わすのはヤマガラのペア。
カエデの樹冠の中を、たくさんの花バチに混じって飛び回るメジロもペア。(カエデの地味な花がこんなに鳥や昆虫を集めるなんて、全然知りませんでした)
高いメタセコイアの梢にとまって、複雑なメロディーを長い長い間さえずっているのは何という鳥なのか、高すぎて姿はよく見えません。
林の奥から聞こえてくる ホ・ヒリヒリホー・ヒリヒリホー という不思議な声も、どんな鳥なのでしょう。

鳥の声に混じって、犬みたいな変な声を出しているのはタイワンリスでした。
ちょっと、声はプレーリードッグ似かも。
でも、カエルの声はアマガエルさえ全くしないのが不思議です。

そんな境内ののんびりした空気を掻き乱すのが、
頻繁に上空を通過する軍用機。
厚木に向かうのか、横田に向かうのか、
ジェット戦闘機、大型飛行艇、対潜哨戒機、早期警戒機、対戦車ヘリコプター、救難ヘリコプター・・・
陸海空取り揃えてにぎやかな事。

それに、世田谷飛行場から飛んでくるのか、たくさんのセスナ。
鎌倉の空がこんなにやかましいとは思ってもいませんでした。

しかし、米軍のジェット戦闘機も沖縄や三沢で肝をつぶされた、キーンという暴力的な金属音ではなくて、旅客機のような低い音をさせて、何となく「しずしず」という感じで飛んでいるのは、首都圏だと遠慮があるのか?単に空も込み合っていてとばせないのか?
sh@

0429 もう初夏ですか

ついこのあいだ、藍那ではたどたどしかったウグイスも、すっかり上手にさえずるようになりました。今日のように曇った日には藤の花が一段と香りを放ち、いつの間にか満開になっている事を知らせてくれます。
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カエデの若葉は伸びきり、クスノキが古い葉を落とし始めました。
ツツドリがその名の通り、筒の底を叩くような声で鳴いています。
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これは銀杏の黄葉、ではなくて、花です。銀杏がこの季節にこんな花を散らすなんて、今まで気がつきませんでした。

さて、いつまでも続いていた軒付けもようやく後半。
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押さえ竹を止める針金を受けるために、屋根裏にもぐり込みます。
寺院の小屋裏は、跳ね木やら飛燕垂木の尻やらいろいろあってややこしく、針受けをするのも大変です。まあ、これでもましな方。
神社によくある化粧天井が張られていると、針受けは完全に無理なので、外から手を突っ込んで押さえ竹を縫い止める事になります。
sh@

0427 おやかた方

覚園寺は僕のイメージするところの、いかにも鎌倉らしい谷戸を辿った一番奥に境内が広がっています。
鎌倉は中心を山手に少し離れると、谷戸に町が入り込んで行って、尾根の緑に囲まれた住宅地の風景は目に優しく馴染みますね。
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今回の現場にはスミタさん父子の他に、藍那の交流民家でお世話になった、天理のタナカさんもいらしています。
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奈良の二大巨匠とご一緒させて頂けるのは、勉強するためのまたとない機会です。勝手知った仲間とだけ仕事をしていれば効率は良いかも知れませんが、個人としても集団としても、技術的な停滞に陥る事は避けられなくなります。

他所の地域の職人さんと仕事をご一緒すると、今まで「そうするべき」と教えられ、より完璧に「そう」しようとしていた事を、「そうしてはいけない」と全く逆の指摘を受ける事がままあります。時として美山町内でも親方によってこのように逆のことを言われて、丁稚の頃は随分混乱して悩んだものでした。が、これは、どちらが正しいのかという問題ではなくて、正解へ至るアプローチの手法の違いです。

「丈夫で美しい屋根」を葺くための解は一つではなく、ましてや材料が変われば例え同じススキであっても、美山のススキと奈良のそれとでは使い方も変わってくるものです。職人として仕事の質を深めて行くためには、技術的にもモノの考え方としても、自分の中にある引き出しの数を増やすと同時に、それぞれの引き出しの中身も充実させて行く必要があります。

とはいうものの、鎌倉には勉強をさせてもらうために来ているのではなく、仕事をするために呼ばれているのですから、例え今まで自分の培って来た技術をリセットする必要に迫られるようなことを求められても、手持ちの引き出しを引っ掻き回し、新たな技術や考えも日々吸収して、それなりに「仕事」をこなしてみせなくては、次の機会が無くなってしまいます。
一旦「使えないやつ」というレッテルを貼られるようなことがあれば、それは僕のような「渡りの職人」にとっては死活問題となってしまいますから。

藍那のように自分の現場に他の職人さんに入って頂くときとは、また異なるプレッシャーが雇われ仕事でも当然のようについてまわります。でも、そんな緊張感をもって現場に入るのは、嫌な事ではありませんけれどね。

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人数は多くないのに手間のかかる軒付けで、なかなか終わりません。到着してから一週間ずっと軒をつけています。「おまえのせいで捗らん」と言われないようにしなければ。
sh@