茅葺き現場日誌@美山/A.S邸」カテゴリーアーカイブ

0902 竣工

竣工まであとわずかというところまで来て、秋の長雨のせいで足踏みしていました。
この現場の始まりの頃には梅雨前線に邪魔されていました。そしてお終いに来て今度は秋雨前線。思えば夏という季節は、前線が上がって行って下りて来るまでのほんの短い間でしか無いのですね。印象は強烈ですけれど。
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雨が上がったので裏側も軒まで刈り落として完成です。
シコロ屋根の上を掃除しながら足場を解体していきます。

この現場に来た頃には勢いのある青田だった稲も、色づきつつある稲穂をしならせるようになりました。
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一つの季節の始まりから終わりまでを、一つの現場で過ごしてしまいました。
まあ、最近では美山でも神戸でも、お盆を過ぎればいつ稲刈りが始まってもおかしくはないようになりましたけれども。

家の周りも掃除して、完成です。
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長いあいだお借りしていた縁側ともお別れです。お世話になりました。

0829 刈込み

破風のてっぺんには、蜂が良く巣をかけます。キイロスズメバチと違ってアシナガバチなら、屋根を葺くときの振動で怒ったりはしないので、なるべくそっとしておきたかったのですが、茅材に直接巣を吊っていたため、古屋根をめくる際に仕方なく切り落としてしまっていました。
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が、棟まで葺き上がってくると、今度は木部にきちんと再建されていました。よかった。
アシナガバチは晩秋に巣を解散したあと、冬眠のために茅葺き屋根に潜り込んでいるのを、古屋根解体の時に知らずに茅ごと掴んで刺されることがありますが、彼等が巣をかけると、庭木や畑の芋虫や青虫をてきめんに減らしてくれるので、なるべく仲良くして行きたいものです。

棟が上がったら刈込み仕上げに入ります。
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表側を仕上げたら、下半分に設置していた足場丸太と梯子のあとも手直ししておきます、
屋根を傷めないように気をつけて歩いてはいますが、それでも無傷という訳にはいきませんので。

表が仕上がったら裏側も。
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今年の夏は気温以上に日本の夏とは思えない乾燥した空気が印象的で、お盆までは暑いというより痛い感じでした。屋根の上では刺すような日差しが堪えましたが、夜にはまるで冬の夜空のような満天の星を楽しむことができました。 でもやはり異常ですよね。蒸し暑くない夏なんて。
お盆が明けると日差しは弱まりましたが、湿度が戻ってもったりと重い「熱さ」に絡まれて汗だくです。毎日Tシャツ5枚ずつ洗濯しています。

0826 棟収め

棟を積むときはいつも、両端を積むものは工程的に真ん中に追われて、忙しく写真を撮る暇も無いので、美山での棟の積み方を順を追って説明することは出来ずにおりました。
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今回現場に人数が少なく、1工程毎に休憩が入るようなペースになってしまったので、図らずも詳しく写真を残すことができました。

まず、最後に葺き並べた茅を止めている表裏のオシボコ(押さえ竹)の間に、茅材を90度回して桁方向に積み上げ、オシボコからとった針金で締め上げカマボコ型に固めます。
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このとき、あらかじめ葺き上げた表裏の屋根の高さが揃っていることを、確認しておくことが大切です。

一つ目のカマボコの上にさらに茅を積んで、固定する針金は下のカマボコを締め上げた針金からとります。
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少しずつ小さなカマボコにして行くことで、棟の断面を葺き上げて来た茅屋根の勾配に合わせた三角にして行きます。
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棟を雨から養生する仕上げの杉皮の長さは7尺ですので、3尺5寸の杉皮でちょうど収まる高さまで、繰り返し積み上げて行きます。
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棟の断面も段々と三角になって来ました。3尺5寸できれいな三角になるように、積み上げて行くカマボコの大きさを調整して行くことが必要です。
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最後のオシボコは葺き並べた茅を止めるために、当然茅の端ではなく途中で縫い止められています。
そのため茅屋根の表面と、オシボコからの針金で固定された積まれた棟のあいだには段差が生じていますから、それを埋めるように短い材料を並べて止めます。
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杉皮で押さえて隙間が出来ないように、普通柔らかめの材料を使います。稲ワラを用いることが多いのですが、今回は半分に切ったススキの穂先の方(シンと呼びます)を使いました。

両端はシンがこぼれないように、それをあらかじめ杉皮で巻いたマキワラを固定しておきます。
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マキワラもあまり端に乗せれば転がり落ちてしまうので、端から1尺ほどはマキワラの下に敷いた杉皮で押さえています。

ウマノリを乗せて棟が上がりました。
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0823 葺き上げ/間もなく終了

表側が葺き上がりました。
平行しておこなわれていた現場が竣工したので、、「美山茅葺き株式会社」からナガノ君が応援に来てくれて、一気にペースが上がりました。
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ひとり増えるだけで倍以上の作業がこなせます。ナガノ君が屋根屋として優秀であることはもちろんですが、やはり作業効率を上げるためにバランスの良いチーム編成が大切です。
わかっていはいても、なかなか実現するのは難しいのですけれどね。

裏側の葺き上げもあと少し残っているので、仕上げてしまいます。
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通常棟を返す際には、片側のケラバを一番上まで積んでしまってから、反対側を葺き始めるものなのですが、人数の少ない現場では段取りも色々と臨機応変にして行かなければならなかったもので。

明日からはようやく棟を積み始めますが、棟飾りの一番上に渡す「ユキワリ」にするための丸太は、お盆の前に近くの山から伐り出して乾かしてあります。
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かつてのように茅葺きが農業の一環として行われることが一般的では無い以上、茅葺きに必要な材料は全て屋根屋が責任を持って用意させてもらえるようにしてはあります。が、こちらのお宅のように家の周りで茅を集めて下さっていれば、大切に使わせてもらいますし、山をお持ちであれば、間伐がてらに必要な材を伐り出して来て使わせて頂きます。
それらの積み重ねが、茅葺きの費用を抑えることになりますので。

0812 葺き上げ/夏の水2つ

中干しを済ませた田んぼに、出穂期を迎えて水があてられています。
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落差があっても畔が傷まないように、必要な量の水だけ田んぼへ引き入れられるように、石がさりげなく上手に使われていて感心させられます。

毎日あまりの暑さに葺き上げのペースもやや鈍ってしまいましたが、ここまで葺くと雨漏りの心配はまずなくなります。
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お盆までに棟を上げることができなかったのは残念ですが。

さすがにこの暑さでは無理も出来ませんし。
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家の裏の横井戸からは、猛暑続きでも変わらず冷たい水が湧き出しています。
この水で入れて、この水で冷やした麦茶が猛暑を乗り切る支えとなってくれました。

0809 古屋根解体(棟返し)

裏側が棟近くまで葺き上がったので、表側の古屋根の解体に取りかかります。
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この屋根の表側は、アリゴシから下半分を何年か前にこぜあげて葺き替えてあります。

そこで今回は上半分だけを葺き替えます。
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美山のやり方では屋根の傷み具合に合わせて屋根を上下に分割して葺くことができますが、上半分を葺き替える際には棟も積み直す事になるので、表裏両方を必ず同時に葺き替えます。
これを「棟を返す」と表現しています。
ひっくり返す訳ではありません。

下半分は葺き替え済みとはいえ、数年経ってその分減っていますから、それに合わせて新しい屋根を葺くと薄くなってしまいます。
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それを避けるためにまず古い屋根を整えて、段を付けてから葺き始めるようにします。

段を付けるとはこんな感じです。
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減った屋根につられないようにして、正しいかたちを出せるようにしておく訳です。

0805 葺き上げ/夏

引き続きケラバを積み重ねています。
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今年は梅雨が明けても何となく湿っぽい日が続き、その分過ごしやすくもありましたが、台風5号(ウサギ)の通過直後、猛烈に蒸し暑い日があってからいよいよ夏らしい、剥き出しの暑さに見舞われています。

現場の近くに良い水があって本当に良かった。
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この時期に屋根の上での作業は寿命を削る思いです。
デスクワークも貯まって来ていますが、日の暮れまで屋根を葺いたら、夜にはもう何をする体力も残っていません。

0801 葺き上げ/石垣

ようやくアリゴシまで葺き上がりケラバ積みへと移行していきます。
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夏で日も長いし頑張って葺いてはいるのですが、いかんせん人数が不足気味で・・・ お盆までに棟を上げるのは難しいかも・・・ 言い訳がましくてすみません。

谷川の石を積み上げた現場の周りの棚田の畔は、石積みと土法の取り合わせがさりげなく、踏みしめられ野芝に覆われた路面と相まってあこがれます。
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砂木の家のアプローチも時間を重ねて、いつかこのような雰囲気を醸して行けたら良いのですが。

0727 葺き上げ/茅20〆

屋根裏から搬出した茅は、美山の〆である「2間縄締め」で20〆にもなりましたが、葺き始めるとあっという間にぺろっと平らげてしまい、追加の茅が運ばれて来ました。
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ところで、この茅の流通単位である「〆(シメ)」が、地域によって全然違うので苦労しています。
美山の2間〆は、神戸などで使われている5尺〆だと7〆〜9〆になります。ばらつきがあるのは5尺〆と言っても実は色々あるためで、流通単位がこんな有様では、これから私達の生活圏の拡大に相応の範囲で茅を流通させようとすれば、とんだ足枷となりかねない懸念があります。

ここまで屋根を葺くのに結構な量の茅が必要だったことがお解り頂けるかと思います。
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やはり茅葺き屋根は一度に葺き替えるものではなく、少しずつ刈り貯めた茅で、傷んだところを治しながら暮らして行くものだと思います。今回の工事範囲がマキシマムかと。
住人の方にそのローテーションの管理に習熟して頂ければ、茅葺きの維持管理をそれほどの負担でもないと考えて頂くことも出来ると思うのですが・・・

0725 棟の解体

お施主さんのご夫婦による手入れの行き届いた現場の周辺には、たくさんの小さな生き物たちが暮らしています。
谷川の堤で仲良く昼寝中のシマヘビとアオダイショウ。
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近づいても体を触られるまで起きない程のんびりした様子は、普段から人にいじめられることなど無いからでしょうか。

葺き上げが捗ったので、続きを葺くために早くも上半分の古屋根を解体しなければならなくなりました。
まず、棟を解体します。
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棟飾りの「ウマノリ」は、昔はその重さで棟を押さえていただけあって、こうして近くに寄るとかなりの大きさ。栗の木で造られているので重さも相当です。

今は針金で引っ張りウマノリで棟を挟んで止めているので、ここまで大きな材を使う必要は無いのですけれども、棟は地域性をもっとも良く現す茅葺き屋根の顔ですから。お施主さんの気持ちとしても、「美山の屋根」にはやはりこれが無いと、ということですね。
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急に現場の人数が減ったので、でっかいウマノリを下ろすのは大変でしたが。

古茅も下ろしてから下地の竹を結わえている縄をかけ直し、下地の補修が済みました。
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あとは棟までひたすら葺いて行くのみです。