関西では茅葺きの軒の厚みは、2尺=60㎝くらいです。下地の垂木の一番低いところ、広小舞の際から縄を取った位置に置いた押さえ竹で、軒の先端をしっかり固めるにはそれくらいが限度になるからです。
でも、東日本に来ると厚さが1m前後もある大きな軒の茅葺き屋根がたくさんあります。
覚園寺でも軒の厚さは3尺=約90㎝。
軒の厚さを決めているのは、屋根の大きさよりも軒の高さが関係しているように思います。
民家は庇の無い葺き下しであれば、大きな屋根のお屋敷でも軒は高くて2.5m程度まで。普通は2mくらいで、建物を正面から見たときに、軒裏よりも屋根全体のボリュームが強調されるため、分厚い軒をつけなくてもそれほど不自然な感じはしないと思います。
それが神社仏閣のように見上げる高さに軒があると、屋根の大きさに比例して軒も厚くしていかないと、プロポーションが崩れて貧弱に見えてしまうのです。
関西では茅葺きのお寺というと草庵風であったりするもので、軒を見上げるような立派な造りになると、瓦葺きや桧皮葺きにするのが一般的です。一方で東日本には茅葺きの凝った造りの本格的なお堂がたくさんあります。
僕は歴史家でも建築史家でもありませんが、日本の中にも地域によって、明らかに異なる文化を背景とした美意識の存在を感じます。
ところで、普通につければ軒の厚みは2尺くらいが限界と書きましたが、3尺の軒をつけるためには、そのための技術がちゃんとあります。
下地の垂木から縄を取れる位置で、押さえの竹を2列以上確保して、それらの竹に直角に交わるように(つまり茅と同じ向きに)短い竹を1尺ピッチくらいで差し入れます。この時短い竹の外に向けた先端が、てこの要領で下向きに押さえる力がかかるようにしておきます。この短い竹を利用すれば、下地の一番低いところよりも、さらに外側に押さえ竹を設置することができるようになり、厚い軒の先端までしっかりと押さえることができるようになるのです。
西日本とは異なる、東日本の文化的な嗜好に応えるために、編み出された技術のように思われます。関東東北には、他にも関西に無い軒付けの工夫が色々とあって興味が尽きません。
sh@