神戸の茅刈りから戻ってみると、武相荘の棟は仕上がっていました。
棟の端に草書体で彫り込まれた「水」の文字は、火伏せのおまじないです。
反対側の端には縁起の良い「寿」を。
文字は茅をハサミで刈り込んで刻み、内側を黒く塗っています。
関西の場合入母屋の破風(ハフ=煙出)に意匠を凝らし、縁起の良い文字や家紋もそこに飾ることが一般的なので、茅に直接文字を彫ることはまずしません。
これは、美山の屋根。
破風の無い寄せ棟の屋根が多い関東では、棟そのものをにぎやかに飾る技術に見事なものを見ることができます。
筑波の「クレグシ」など技術として見事の一言で、職人として挑戦してみたい誘惑にも駆られますが、武相荘では葺き替え前の棟のデザインを踏襲して控えめに。
午後にお坊さんをお迎えして棟上げ式が執り行なわれました。
工事中で立ち入り禁止だった作業足場の上にお供えが並べられて、関係者の方々も上ってこられました。
みなさん真っ直ぐ屋根に近づいて行って、まず触ってみます。
やっぱり触ってみたいですよね。
足場が外されたらもう触ることも近くで見ることもできなくなりますから、この機会に撫でてそれから上ってもみて、屋根と親しくなっておいて下さいね。
棟上げのお祝いにお呼ばれして、お酒と会話に気持ち良くなるまで酔っぱらってしまいました。
武相荘が多くの人達から大切にされていることを、あらためて深く胸に刻んだ一日でした。
そんな建物の屋根を葺かせてもらえるのは、職人としても本当にありがたいことです。