破風(ハフ、入母屋の煙出)の下端、屋根の肩のところが近づいて来ました。
破風の下端を結ぶラインを、美山では「オリモト」とか「アリゴシ」と呼んでいます。
わざわざ名前がついているのは葺き替えのタイミング計る際に、このラインから上と下で屋根を2分して考えるからです。
下半分は上半分よりも屋根を流れる雨水の量が多いため、当然ながら早めに傷んできます。屋根を効率よく維持して行くためには、傷んだ部分だけを順番に葺き替えられるようにしておく必要があります。
最近ではさらに、傷みやすい下半分にススキより丈夫なヨシを混ぜて葺いています。
ススキに関しては肥料や飼料としての需要が無くなった現在、茅葺きの葺き替えのためだけに無理をしてまで必要な量を確保するよりも、まずは出来る範囲での良質な茅場の維持管理に努めます。一方で必要性は認められながらも需要が無く滞っている、河川湖沼のヨシ原の刈り取りを茅葺きのために進めることで、茅葺きを介して地域を超えた自然と共生する文化の盛り上がりを期待しているのです。
そのために、両者をバランスよく適材適所に使い分けるように努めています。
ただし、今回持ち込んだ材料は、実は正確にはヨシではなく「オギ」です。
産地の宇治川河川敷のヨシ屋さんは、ヨシのことを「メンヨシ(女葭?)」オギのことを「オンヨシ(男葭?)」と呼ばれています。
ヨシ原の中でヨシとは別の群落を作って棲み分けているのですが、オトコヨシと呼ばれるだけあってヨシよりも堅く、表面には光沢があり水をはじきます。
そのため水濡れに対して耐久性を発揮する一方で、材料としては親水性に欠ける分だけ表面張力が小さく、緩い勾配で屋根に葺くと雨水を通過させてしまいやすいため、使用に際しては注意を必要とする材料でもあります。
そこで、様々な長さに切断したものを用意して、それらを何層にも重ね合わせることで最適な材料勾配を保つようにします。
茅葺き屋根はその建物の建つ土地における人の暮らしの中で、最も身近で合理的に入手できる材料で葺かれてきました。
ならば、生まれた村で一生を過ごす人が過半だった時代と異なり、現代の私達の生活範囲に照らしてみて、関西の屋根を葺く材料として地元の材料に加えて、宇治川や淀川、琵琶湖のヨシが混ぜて使われることは、とりたてて特異なことではないと考えています。
もちろん、いずれは茅葺きの需要がさらに増えて、宇治川のヨシは京都南部で消費され、丹後の屋根を葺くために円山川河口や久美浜湾のヨシ原、世良高原のススキ原が再興されていくことを、目指しての上でのことです。