月別アーカイブ: 2007年5月

0530 (茶祖) 刈り落としました

このブログを訪ねて下さっている皆様、長らくご無沙汰してしまって申し訳ありませんでした。
5月は丁稚サガラと二人、あちこちの現場へ助っ人に渡り歩く毎日で、あまり工程の参考にもならないと思い、ブログの更新も滞ってしまっていました。

しかし、手(葺く技術)の揃った職人集団が、それぞれの現場に責任を持ちながら協力し合える体制が整えられているからこそ、ここぞというところだけ少し手助けに行くということも出来る訳で、それは大工さんや左官屋さんの世界では当たり前に行われていることなのでしょうけれども。屋根屋(茅葺き職人)でも私共のグループでは、後継者難がどうこうという状況から脱して、そういったことを当たり前として、お施主さんと接することができるようになりつつあることを知って頂きたいという思いもあり、今さらご迷惑かなとも思いましたが、1ヶ月分のブログをまとめて更新してしまいました。

興味がございましたら、お時間のある時にでも読んで頂ければ幸いです。

さて、永谷宗円生家の刈込み、続いています。
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軒裏を刈り落とし、軒先を仕上げていきます。

軒の端を揃えて、完成です。
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刈込みは人数がそのまま工期に繋がる工程です。1人あたりの仕事量がはっきり現れるのは、助っ人としては評価が厳しくなる分だけやりがいがあります。

0524 (茶祖) 刈込み

宇治田原の「永谷宗円生家」の葺き替え現場にやって来ました。始めて煎茶を煎って作った、緑茶の祖だそうです。
ヤマダさんの「山城萱葺き屋根工事」の仕事です。
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棟が上がって、今日から始まる刈込みをお手伝いします。

ハサミをかける時に正しく刈れているかどうかは、目で見て確かめることしか出来ません。複数で並んで作業することで、複数の目で異なる角度から確認し合いつつ仕事を進めることが出来ます。
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自分の手元だけではなく、屋根全体のバランスに目を配ることが大切です。

ところで宇治田原の現場に通うために、烏丸今出川にある、ヤマダさんの弟子のナカモリ君の家にお世話になっているのですが、京都というのは朝晩駐車場まで歩くだけでも楽しい街です。
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歴史ある街並が「住みこなされている」雰囲気に惹かれます。

0520 軒付け

大野のM窯、軒付けの続きです。
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ヨシの編み付けだとマメコバチが巣を作るのをお施主さんが嫌われたので、軒裏に出て来るところには断面に穴の空いていないススキをかきつけました。

続いて稲ワラを取り付けます。
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・・・何か、ついこのあいだ同じようなことをやっていたような気が・・・

稲ワラの上には茅を並べて、軒裏を仕上げます。
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葺き替えの現場は軒が付かないと落ち着かないということで、サガラと2人軒付け助っ人の旅でした。

0519 編み付け

S邸の軒裏を仕上げたところで、慌ただしく次の現場の応援にやってきました。
美山の大野地区にあるM窯。ここも美山茅葺き株式会社の現場です。
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美山ではナカノさんや僕の、さらに次の世代が現場を担えるだけに育って来ていて、定期的な部分補修は手分けして、日常的なメンテナンスとしてこなせるようになってきています。

古屋根はすでに解体してあったので下地を直し、こちらは土間が吹き抜けで屋根裏が見えるので、化粧にオギを並べておきます。
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オギは充分に長いので軒の編み付けと兼用しても良いのですが、ストロー状のオギやヨシを軒に使うと、その内部にハチが巣を作ることをお施主さんが嫌われたので、外に現れる部分には穴の無いススキを使うことにしました。

オギの断面に空いたこの穴に、マメコバチ(コツノツツハナバチ)が好んで巣を作ります。
果樹園ではリンゴやサクランボの受粉に活躍しています。栽培農家の方の話しでは、人を刺すことはないハチらしいですけれどね。
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草桁に乗った、レン(垂木)とレンの間の隙間からは、家の中で火を使わなくなると、ネコやイタチといった動物が入り込んで来るようになってしまうので、ワラ束や板で塞がれることが多くなっているのですが、こちらでは屋根裏の換気を妨げないための配慮でしょうか、金網が使われていました。

0517 (S邸)軒付け

引き続いて大野のSa邸です。
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田植えの時期が近づいても、寝かされたままの休耕田が増えて行くのは寂しい(少々恐い)ものですが、こうして一面の花畑になってしまうと、それはそれできれいだな、とも感じてしまいます。

さて、雑木の下地です。あまりにひどい凹凸やずれた垂木は直す必要がありますが、今回はそこまでひどくはありませんでした。
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下地の竹は傷んだものを取り替え、使えるものは再利用して、緩んだ縄をかけ直して行きます。
そして、軒先に真っ直ぐな茅を選んでかきつける編み付け

そして葺き材の茅を屋根に対して角度を持たせて葺いて行けるように、テーパーのきつい稲ワラをとりつけます。
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稲ワラの上の2列の竹は、上が下地竹とはさんで稲ワラを止めているもの。下は仕上がった屋根を軒下から見上げた時、稲ワラと茅との境のラインが真っ直ぐ通るように挟み込む割り竹です。

稲ワラの上に解体した古屋根から選別した穂先の茅、短めの茅、そして新しい長めのきれいな茅の順に並べて押さえます。
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これで軒の裏側となる部分は出来あがりました。

0514 (S邸)屋根めくり

美山町の大野地区にある、S邸の葺き替え現場にやってきました。
ナカノさんの「美山茅葺き株式会社(旧きたむら茅葺き屋根工事)」の現場です。
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既に足場が組んでありましたので、今回葺き替える面の古屋根をめくります。

屋根下地のレン(垂木)に使われている丸太は、時代を下るにしたがって雑木(クリ、ナラなど)、アカマツ、スギと変遷して行きます。下地が平らでなければ、上に葺く屋根を平らにするのも難しいのですが、曲がりの大きい雑木で組まれた古い屋根では、平らな下地は望むべくもありません。
まあ、この程度の凹凸ならなんとかするのが職人技ということですね。
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屋根裏にはお施主さんが刈り貯めて来られた茅が保管されていますので、屋根をめくったところでまずそれを搬出します。

外に出してみると結構な量になります。
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積んであった茅が無くなったところで、数十年ぶりに天井裏の掃除もしておきます。
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昔の民家の天井板は荒板を並べてあるだけなので、板と板の隙間にホコリが詰まっているくらいの方がちょうど良いという人もいますけれど。まあ、ほどほどに。

070510 初夏の里山

神戸まで茅の搬出に来ました。
茅刈り体験会「カヤカル」の会場となった団地の茅場は、春になって芽吹いた緑に覆われています。
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刈り取りさえ怠らなければ、毎年繰り返し生まれる豊かな草原が、多くの生き物たちの命と私達の自然と共生する暮らしを支えてくれています。

同じ団地内の道路法面でも、茅刈りによる手入れをしていない場所との違いは一目瞭然です。
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もう少し季節が進めばここも見た目には緑色となるかもしれませんが、実態はこのように枯れ草ばかり多くて、それでは小さな生き物たちを育むことも、私達が資源として利用することも難しいのです。

初夏を迎える里山の茅倉庫では、鳥たちの鳴き声がにぎやかです。耳を傾けていると、実にたくさんの種類の鳥たちが鳴き交わしています。
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耕作放棄された一帯の里山は、次第に単調で野生の凄みすら感じさせる、原生の植生へと変遷していこうとしていますが、草刈りなどの管理を続けている倉庫の周りは、人の気配の漂うやさしい景色を保っていると思います。
それは多分、多くの鳥たちにとっても居心地の良い空間であるはず。

廃田を再生したこちらの茅場は土が豊かすぎて、本来痩せ地に生えるススキは毎年少々育ち過ぎ気味。茅刈りを続けてることで次第に落ち着いて行くとは思いますけれども。
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日当りの良い草地を好むシダが、ここでは年々増えて来ています。周辺の茅刈りをしていない休耕田は、ササやクズの茂るジャングルとなってしまっていて見られません。
茅場では冬のススキだけではなく、春のワラビという収穫も楽しめるのです。

070501 丹後の笹葺き

蚕室として利用する中2階への通風のために、茅屋根の軒を切り上げて窓を設け、妻側の壁を大きく曝す旧永島家住宅の造りは、丹後の山村集落で普通に見られる民家の造りです。
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ただオリジナルの丹後の民家は、茅材としてススキやヨシではなくササを用いる、笹葺きが一般的だったようです。

宮津では笹葺き文化を継承し里山の再興を目指そうと、立命館大学経営学部学生有志や地元NPO、森林組合などが「笹葺きパートナーズ」という活動を続けていて、本ブログに度々登場してもらっているヤマダさんも中心的な役割で活躍されているため、僕も何度かお手伝いにお邪魔したことがありました。
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今回せっかく宮津まで来ているので、帰る前に活動拠点として笹葺きの屋根を葺いている、上世屋という集落の様子を見に行って来ました。

毎年笹刈りをして収穫した分だけ葺き進めているのですが、今年の秋の収穫分でいよいよ葺き収まりそうなくらいに捗っていました。
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表面に笹の葉が密集していることからわかるように、ここで笹は元を上にして葉先を外に出した逆葺きで葺かれています。
逆葺きの笹葺きは、今ではここ丹後と能登にわずか数軒ずつが残っているだけの、貴重な技術となってしまいました。

しかし実は笹はつい最近まで、丹後から由良川水系に沿った福知山、綾部あたりまで、広く茅材として用いられていました。
この写真は由良川周辺に大きな被害の出た記憶も新しい、2004年の台風23号の直後に撮ったもので、強風によって「缶詰」屋根のトタンが飛ばされてしまったところ、中から笹葺きの屋根が現れています。
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定期的な葺き替えの必要な茅葺き屋根は、たとえ重要文化財であっても、わずか数十年前の屋根の実態を知ることすら難しくなってしまいます。しかし、トタンを被せられている屋根では、内部の茅葺き屋根は被せられた当時のものが長く保存されることになります。カンヅメ屋根はかつて茅葺きが当たり前であった時代の、地域毎の特色を活かした豊かな材料や技術を保存してくれてもいるのです。

トタンを被せられた茅葺き民家について、以前「茅葺きに厳しい時代を乗り切り次代に繋ぐための文字通りカンヅメとして」 「人の暮らしとともに変遷する民家のある時代を象徴するスタイルとして」もっと評価するべきだと書きましたが、歴史資料としても学ぶべきことの多い、大切なものだと思っています。

ところで上世屋を訪ねた目的は、実は笹葺きの様子を見るだけではなく、この棚田を見ておきたかったからでもあります。
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笹葺きのお手伝いに来るときは常に晩秋だったのですが、見事な棚田に水を張ったところを是非一度見ておきたかったもので。
ところどころ休耕田も目につくようにはなっていましたが、文化としての茅葺き屋根は周りの里山と一体としてでなくては成立しませんから、笹葺き再興の取り組みがいずれはこの棚田を活かしてくれるようになることも期待してしまいます。