棟の材料としては小麦ワラが一般的で、ほかにスゲの仲間(セッジ.sedge)なども使われます。
今回使うのも小麦ワラ。これは茅屋根葺き専用に栽培されている古い品種です。
品種改良が進んで小麦の収穫量の多い現代の品種は、その分ワラが短くなってしまっているからで、日本でもコシヒカリのワラは短く弱いので、しめ縄造りなどを専門にされる方は、酒米などやや古い品種を育てている農家さんからワラを集めるそうです。同じことですね。
茅葺き材料としては「ウィートリード(wheat reed)」と呼ばれています。
わざわざ「ヨシっぽい小麦ワラ」という名がつけられているのは、イギリスで伝統的に茅屋根材として用いられて来た小麦ワラは、これとはかなり違った形をしているからです。
それについては追々ご紹介したいと思います。
古い棟を撤去してから新しい棟を被せて行きます。
置き並べた茅を押さえて止めた上に、次の茅を置き並べて押さえたところを隠す。これを繰り返し葺いて行く茅葺き屋根にとって、それ以上茅を置けなくなってしまう屋根のてっぺんをどう隠すか?そのための創意工夫が「棟」な訳です。
弱点を雨水から隠すために、棟は屋根表面から段を付けて厚くしておく必要があります。
段を付けるために根本を下向きに取り付けるのが「スカート(skirt course)」。
その上に厚みを均等にするため根本を上向きに取り付けるのが「セカンドコース(second course)」。
それら全体を包み込んで一体化するのが「ラップオーバー(wrap-over)」。
棟の断面が三重になっているのがわかるでしょうか?
ウィートリードはあらかじめ充分に濡らしておいてから使います。
茅材は濡らしたまま放置すると黴びて腐って使えなくなりますが、屋根の一部になってしまえば茅屋根は通気性に富んでいますから、葺く直前に濡らす分には、屋根の上で乾く目処があるなら問題ありません。
濡らすことでしなやかになり下地の茅屋根に密着し、小麦ワラ同士も隙間が少なくなり、乾いた後で目の詰んだ棟になります。
セカンドコースは裏表の茅材がてっぺんで突き合うように置きます。
スカート、セカンドコースを固定するために日本のような押さえ竹を通していないので、まずスカートを端から端まで並べて固定し次にセカンドコース、では無く、ハシゴから手の届く範囲でラップオーバーまで仕上げてしまってから横に移動して行きます。
スカートなどを固定しているのは、ハシバミ(hazel)の若木を裂いて両端を尖らせU字に曲げた杭。
スパー(spar)と呼びます。
スパーは折り曲げてあるのではなく、捻って曲げてあるので木の繊維が切れておらず、U字に曲げて茅屋根に差し込むと内部で真っ直ぐに開こうとして抜けなくなり、しっかりと効きます。
ただ、細く裂いた若木とはいえ木材を「捻る」のは大変です。
8年振りの僕は何とかコツは思い出したものの、ひどい肩こりと血豆をこさえながらの作業でした。