今回急な話しだったので国際免許証を用意できませんでした。休みの日でもカントリーサイドのロジャーさんの家からは、車が無いとどこへ行くことも出来ません。
そのかわり、この国は歩くための小径ならどこにでもあります。
「通過する権利」に基づくパブリックフットパスが、畑や放牧地や、時に他人の庭!を横切ってどこまでも続いています。
7月初旬のイギリスの風景の美しさは、僕があらためて述べるまでもないと思います。
ウォーキング好きにとっては天国でしょう。
緩やかな丘に広がる、生け垣で縁取られた麦畑。点在する雑木林と楢の古木。
それは「人に飼いならされた自然」です。
かつての日本の農村と同じように。
フットパスのすぐ傍に、アナグマの巣穴がありました。
アナグマもウサギもコマドリも、この農夫の箱庭のような自然の中で、人の営みが自然の摂理と同様に繰り返されて行くことを、疑いもせずに暮らしています。
しかし、見た目とは裏腹にイギリスのカントリーサイドも、少しずつ確実に荒んでいます。
生業の場として利用されなくなった雑木林は放置され、鬱蒼と繁り過ぎた木々で暗い薮になってしまっています。
麦畑も機械化と農薬の使用で、既に必ずしも生き物の暮らしやすいところではありません。
茅屋根の葺き替えのためにスパーやリガーを使うことは、ハシバミの木を定期的に伐ることで雑木林に正しい新陳代謝を促すことになります。
茅葺き用の品種の小麦の作付けが増えることは、減農薬有機栽培の小麦畑が増えるということです。
茅葺き屋根を見て癒されるのは、その背後に人と自然の共生する、持続可能な暮らしが透けて見えるからかと思います。
ヨーロッパの茅葺きにおいて際立って伝統的な素材と工法に拘っているイギリスは、名実共に身近な自然環境に責任ある暮らしのシンボルとなっているのです。